iwao's diary

小林巌生のブログ

World Data Viz Challenge 2016レポート【後編】

3日目:バルセロナの先進的な取組を学ぶ視察ツアー

3日目はバルセロナ市のいくつかの公的機関を視察した。

まず、バルセロナ市情報局を訪ねた。ここでは、バルセロナ市のICTプラットフォームの概念City OSと、その中に位置付けられ、センサーデータを統合するためのプラットフォームであるSentiloを紹介してもらった。DSCF7528

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官公庁とは思えない情報局の質の高い空間

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壁一面にプリントされたバルセロナの航空写真を見ながらオーバービューを解説

バルセロナ市のセンサー基盤「Sentilo」

Sentiloはセンサーデータを統合するためのプラットフォームで、データベース、API、センサーマネージメントのためのソフトウェア、ダッシュボード(GUI)などで構成されている。
対応するセンサーは複数あり、行政の目的別にセンサーが導入されている。

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一部ではよく知られるようになったCity OSのコンセプト。Sentiloは左下に位置付けられている illustration: Ajustment de Barcelona

SentiloにはデータにアクセスするためのREST APIが実装されており、簡単にデータを取得することができる。API仕様ではセンサーの追加もできるようになっているが、バルセロナ市で実際にどのように運用されているかは確認できていない。
センサーとサーバー、または、その先のアプリケーションの間でリアルタイムにデータをやりとりするためにPub/Subが採用されている。

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Sentiloのアーキテクチャ illustration: Sentilo

職員が利用するダッシュボードには目的別に用意されたデータビジュアライズが表示される。(データビジュアライズにはKibanaが使われていると言っていた。)
たとえば、時間帯や場所など市内の騒音の状況が一目でわかるようになっている。(スタジアムの近くの騒音センサーを見ていればFCバルサのゴールの瞬間がわかるとか)
センサーの不調などもすぐにわかるので、メンテナンスも効率的に行える。
各センサーから取得したデータをサーバーに送る通信には街のフリーWiFiを活用しており、通信費も抑えられている。(そういえば、先日オランダ全土でLoRaが利用できるようになったというニュースがあった)

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ダッシュボードのイメージ

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ダッシュボードのイメージ image: Sentilo

センサーの設置については担当部局と費用対効果など事前に十分な調査を行った上で計画を作っており、センサーの設置コストについては、EUの助成金(具体的にどの資金かは不明)が充てているということ。

ここで重要になるのは、バルセロナ市がなぜセンサーネットワークを推進しているかという点で、市民生活の質の向上、行政の効率化という目的が明確である点だ。空気の質、騒音、などはいずれも、市民の生活の質の向上を目標としている。ゴミのコンテナにセンサーを設置しているのは行政の効率化だ。

そして、Sentiloについてもう一つ重要な点がオープンソースであるという点だ。
Sentiloはバルセロナ市が開発したが、オープンソースとしてGitHubソースコードが公開されている。バルセロナ市はSentiloは自分たちで使うのみならず、世界の都市にむけた普及活動も展開している。すでに、カタルーニャ州の多くの市、ドバイなどに導入済みで、さらに、モンテビデオブリュッセルも関心を示しているとのこと。また、行政機関やセンサーサプライヤー、インテグレーターなどがコミュニティを形成している。神戸市にもぜひ導入してもらいたいと売り込みしていた。オープンソースを推進する理由としては、システムはより多く使われるようになることで、改善されたり、関する知識が共有が進むと期待していると強調していた。

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リンク:

http://www.sentilo.io/wordpress/

バルセロナ都市生態学

次にバルセロナ都市生態学庁を訪問した。バルセロナ都市生態学庁は都市を科学的に分析して評価や政策立案を行う専門部局で、ワークショップ二日目でスーパーブロックを紹介しれてくたSalvadorさんがディレクターを務めている。

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オフィスの窓からは地中海を望むことができる最高のロケーション、、DSCF7545

今回のツアーでは彼らの分析業務を実際のデスクトップを見ながら担当職員自ら説明してくれた。

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全員でデスクトップ画面をのぞきこみながらスタッフが解説

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都市の多様性、ヒートアイランド、空気の流れ、エアーポリューション、トラフィックシミュレーションなどについて、ソフトウェアやアルゴリズムを用いて分析し、都市の現状を把握したり、施策による変化をシミュレートしている。

ここで、分析結果をどのように評価すれば良いかという問題を思いつくと思うが、都市生態学庁では市民の生活の質の向上を目的とした根本的な独自の指標を作成している。

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4つのテーマ、7つのスコープ、41の指標を定め都市を評価している Photo: Sayoko Shimoyama

ちなみに、オフィスの目の前はすぐビーチ。。

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バルセロナ市設Fab Lab

バルセロナは早くからFab Labに取組み、その活動はよく知られているが、バルセロナ市では市設のFab Labを3箇所展開している。それぞれ、社会的弱者のサポートや、サスティナビリティやエナジーなど、扱うテーマを変えて、それに応じた機器をいれているとのこと。今後さらに拠点を増やしていく計画。
運営は日本で言うところの指定管理制度のような制度(正確なところは要調査)を使っているよう。

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今回視察したところは社会的弱者の生活の質の向上をテーマとした施設で、施設や設備の利用は全て無料。子供による利用も多いとか。4歳のグループが作品を作ったとか、センサーやカメラを内蔵した鳥の巣箱を12歳の子供が作ったとか、興味深い事例が紹介された。

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地域の教育機関と連携しており、学校の先生にも学びの機会となっている。ファブラボで体験学習を実施したり、学習方法と必要な知識や技術を習得した後、学校に戻ってそれを実践するなど、効果的に機能している。(しかし、プログラミングにしても、デジタルファブリケーションにしても、バルセロナでは先生より子供の方が詳しい場合も多いとか)

これはバルセロナに限らず、世界中のFab Labで共有されている思想だが、利用者にはなにかしらのコントリビューションがもとめられる。なにかを作る際の工程を記録して公開することだったり、自分で使用するために作った3Dモデルのデータだったりとか、知識や技術の交換と蓄積を無料で行うことが推奨されている。

子供たちはデジタルファブリケーションを体験することにより、より創造性を発揮できるようになる。また。地域や社会の課題に即した利用方法を考えるように促していることや、先に紹介したように、オープンコミュニティにコントリビュートすることが求められるので、そうした中で社会的な思考が育つ。
これも、バルセロナが政策として掲げる「コラボレーティブエコノミー」の一貫として、より説得力を持って感じられた。

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まとめ

昨今、日本の公的機関でもオープンデータやビッグデータに関する取組に積極的だ。しかし、日本の場合は往々にして、技術の導入自体が目的化してしまい、本質が見失われる傾向にあるのではないだろうか。一方、バルセロナ市では「市民の暮らしの質の向上」のような本質的な目標の達成のために技術を正しく理解しうまく活用していると感じた。また、都市生態学庁で見た「評価フレームワーク」があることで、政策立案に際しての合意形成もはかりやすく、効率的に仕事を進められているのではないか。

そして、それを支えるのは行政の科学技術に対する理解と人材もさることながら、バルセロナの歴史的背景のもと醸成されてきたCitizen-Centricという考え方が広く共有されていることが大きいのではないか。ゆえに、スマートシティーにしても、コラボレーティブエコノミーにしても、一本筋の通った長期的な政策を着実に進めることができているのではないだろうか。

帰国後、某省で打ち合わせしているときに聞いたのだが、省内での予算要求に対してエビデンスを求めていく方向にあると言っていた。
ここで言うエビデンスというのは、その事業を実施する理由、また、実施することで期待される効果をデータに基づき合理性を持たせた説明ができるようにせよということ。
神戸市でも職員を対象としたデータサイエンスの研修プログラムが実施予定とのこと。

今後、日本もバルセロナで目の当たりにしたような状況に少しでも近づくことを期待したい。

 

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Sagrada Familia

 

最後にお知らせ

「World Data Viz Challenge 2016」の2nd ラウンドを10月に神戸で開催します。参加者を追加で募集する予定ですので、ぜひ、ご注目ください。

また、すでに各方面からも問い合わせをもらっているのですが、バルセロナに視察に行きたいという方が多数いらっしゃるようであれば、改めてツアー企画をしようと考えています。興味のある方はご連絡ください。

 

前編(バルセロナからのプレゼンテーション)

中編(日本からの参加者によるプレゼンテーションとシンポジウム)

後編(バルセロナICT×まちづくり最先端視察ツアー)